民数記9:15−23/Ⅰコリント1:1−9/ルカ4:16−30/詩編111:1−10
「そこでイエスは、「この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した」と話し始められた。」(ルカ4:21)
お読みいただいたルカ福音書4章16節からの話しは、イエスの故郷であるガリラヤのナザレでの出来事を書いています。しかも安息日に会堂で起こった出来事でした。安息日は神が天地創造の業を6日間ですべて終えて7日目に休まれたことを憶えて、人も安息日には仕事を休んで神を礼拝する特別な日と定めたことによります。特別な日ですから他の日と同じようなことは出来ません。安息日規定は非常に厳しくまた重い規定でした。その日に会堂で神を礼拝するために集まっていた人たちが、この物語の最後にはイエスを殺そうと実際に行動を起こすわけです。ユダヤ教の教えに忠実になろうとしたあまり大事な安息日規定を無視して人を殺そうとまでするその滑稽さが当の本人たちにはわかっていない。なんとも皮肉なお話です。
それはさておき、実はこの4章で、冒頭引用した言葉、「そこでイエスは、「この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した」と話し始められた。」(21)というのは、ルカ福音書によるイエスの公の発言の第一声なのです。ルカ福音書は2章までが誕生物語、3章はバプテスマのヨハネの宣教の話しとイエスの受洗、そして系図、4章の冒頭はイエスが悪魔の誘惑を受けるという話しで構成されています。例えば悪魔とイエスとの間で会話はありますが、それはイエスの公の発声というより、心の中での自問自答のようなものです。先週見たように弟子を招くのは5章になってからです。
とすると、この4章21節はイエスの発した一番最初の言葉であり、そこに「今日」というキーワードがあるのです。
イエスはイザヤ書61章を読んだとされています。そしてその預言が「今日」成就したと語りますが、それだけでなく、イエスご自身が救い主としての役割をこのイザヤ書61章に寄せて規定したのです。それはいわゆる「僕の歌」であり、「キリストとは、貧しい者や抑圧された者や投獄されている者の望みを実現する神の僕」のことであり、イエスご自身が「私はそのために今日来たのだ」と仰ったということでしょう。
神の国は今日 来ている。神の約束が成就し神の目的が実現する終末の時は今日来ているのです。約束を待ち望んだ人たちには、だから今日変化が訪れる。貧しい者、不当な扱いを受けている者、抑圧されている者に変化をもたらす今日が来たのです。昨日ではない、明日やいつの日かでもない、明確に今日だとイエスは宣言されました。
今日わたしたちは四谷新生教会の創立を憶えてここに集まっています。1951年1月28日、この場所にあたらしい礼拝堂が建ち、それを神に捧げる礼拝を行った日、72年前のこの日を憶えて今日ここに集まったのです。
先日牧師室のロッカーから貴重な資料を見つけました。「当教会の沿革」という文章です。いつ発行されたのか日付もなにも見当たりませんが、私の勘では甲原一先生が書き残したものではないかなぁと想像していました。読んでみますね。
「当教会は、初めは明治6年2月わが国に宣教を開始したバプテスト教会に属していました。然るに昭和15年第2次世界大戦の危機がせまり、当時わが国にあった30余のキリスト教各派の間に教会合同の運動が起るや、バプテスト教会もこれに参加することを決議しました。そこで当教会は昭和16年6月日本基督教団が 成立したとき、直ちにこれに加入したのであります。
そのころ当教会は、まだ日本基督教団春日町教会(旧称インマヌエル・バプテスト教会)と日本基督教団田村町教会(旧称芝バプテスト教会)とに別れていましたが、両教会とも昭和20年4月の大戦災で会堂を焼失しました。
よって両教会は、昭和24年のころから合同の儀を進めるようになり、ついに 昭和25年5月合同を決議し、バプテスト女子学寮跡の敷地を譲りうけて直ちに会堂の建築に着手し、同年11月 その落成を見たのであります。
新会堂の献堂式は昭和26年1月28日(日)に執行、その日に近い1月最後の日曜日を教会復興記念日とし、その日を教会総会日と定めたのであります。」
今日わたしたちは教会創立記念礼拝を献げていますが、この文書が発行された頃の信徒たちは、この日は「教会復興記念日」として思いを寄せていたのです。この「復興」に込められた願いや祈りをわたしたちは忘れずにいたいと思います。もちろん、戦火により焼失した二つの教会が新たな思いをもって新しく教会を始めたことが「復興」の中味でしょう。しかしわたしたちの信仰にとって、「復興」とはいつでも今日がその日、今日こそその日とされるべきものでしょう。その思いを強く保って、これからもこの場所で神をたたえる礼拝を捧げ続けて参りましょう。
祈ります。
すべての者を愛し、お導きくださる神さま。四谷新生教会の創立72周年を憶え、あなたが支えつづけてくださったそのお恵みを心から感謝いたします。わたしたちの信仰を、あなたの導きによって常に復興させてくださいますように。今日また新たな思いをもってあなたの前に進み出ることが出来ますように。この教会の歴史の中で注がれてきた篤い祈りを、あなたは聞きあげてくださいました。わたしたちが献げる祈りにもどうぞ祝福をもって応えてください。復活の主イエス・キリストの御名によって、まことの神さまにこの祈りを捧げます。アーメン。