「ルイ・パスツールが『幸運は準備された心にのみ宿る』という名言を残しています。私の今の流れをみたときに、いい先生、友達、学会での付き合いに恵まれた。それは準備された心なんです。ある日突然宝くじを引いて当たったわけじゃない。いろんな経験を大切にしていくとそれが将来花開く、そう言いたいですね。」。ノーベル化学賞を受賞した北川進京都大特別教授が会見で子どもたちに伝えたいことを聞かれて答えた言葉。「制御性T細胞」を発見しノーベル生理学・医学賞を受賞した大阪大学の坂口志文特任教授と共にお二人が今週の話題を席巻した。
坂口教授は研究の初期の頃そんな細胞の存在は疑われていたと言うし、北川教授も「MOFなんてすぐに壊れてしまうだろう」と言われていたという。だがお二人ともそれで対象への興味が失われることはなかった。その成果が露わになったのが今回の受賞ということだろう。まさに準備され尽くしていたのだ。
一方で、お二人とも基礎科学研究への支援・基礎研究重視をそれぞれ阿部文科相からの祝意の電話口で要請したとニュースが伝えていた。「幸運」「偶然」「チャンス」が好む「準備」であるはずの諸研究、特に基礎研究が「カネにならない」という理由(かどうかは不明だが)で文科省の補助金が削減されていること、従って若い研究者が研究時間を確保(つまり「準備」)出来ない状況にあることを憂えているのだ。このところの農業(コメ)政策を巡るドタバタも思えば、この国はあらゆる分野で「実業」を捨て「虚業」で生き延びようとしているとしか思えない。
折しも、AI関連事業会社の元社長ら4人が金融商品取引違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕された。なんでも売上げの9割がウソだったのだとか。AI関連事業が「虚業」だとは言わないが、やっていることは「虚偽」だった。
そんな「虚偽」「虚業」に浮かれる時代はさっさと終わらせ、自分を準備された心に磨き上げる風潮を広めたいとつくづく。
2025
12Oct
四谷快談 No.237 準備された心に
