山口県・宇部市(関東辺りでは「宇部興産《旧称、現在はUBA》」という会社名は知られているかも知れない)は瀬戸内海に向かって開けた都市。山口宇部空港のある街。
その空港の北東近くに床波海岸・床波漁港がある。瀬戸内海の揺蕩う波に洗われるように、異形を放つ二つの煙突状の突起物が海面からニョキッと突っ立っている。これはピーヤと呼ばれる排気・排水筒。初めて見る人は必ずちょっとギョッとするもの。
この辺りは江戸時代から石炭が採掘されていたが、これらは瀬戸内の製塩に用いられていたらしい。鉱脈は海底にまで伸びていて、明治維新後民間企業によって開発が進む。そのひとつに「長生炭鉱」がある。この炭鉱は戦時中の1942年2月3日、沖合1キロほどの海底坑道で海水流入事故(炭鉱用語で「水非常」と呼ぶ)を起こし183名が死亡した。そのうち136名は朝鮮人労働者だった。これらの亡骸は救出されることなく2024年の今もこの海底坑道に眠った(放棄された)まま。だから異形の突起物(全国的にも海の中に立つピーヤはここだけ)はいわば183名の墓標でもあるわけだ。
この事実を歴史に留め、朝鮮人被害者の名前を刻む記念碑の建立とピーヤの保存、証言・資料の収集・保存を目的に市民運動「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」が1991年に結成され、翌年から毎年事故の日に合わせて韓国から犠牲者の遺族を招いて追悼集会を開催してきた。
この市民運動から、長生炭鉱の坑口を開け遺骨発掘をするためにクラウドファンディングを始めると呼びかけられた。そして当初の目標650万を集めついにこの9月25日、だいたいの見当しか付かなかった場所で、坑口を塞いでいると思われる丸太を取り除くと勢い良く水が噴き出して、その後坑口が姿を現したと。
82年の闇に光が差し込んだのだ。遺骨収集はもちろん多くの困難が予想されるだろう。だが、発掘と返還は我々の責任だ。
2024
29Sep