「えんちょうだよ」というお便りを4月から月一回出している。その第一号に「おべんとう」のことを書いた。
幕内秀夫さんという管理栄養士が「子どものお弁当はおにぎりが一番良いし、おかずなんて無くてもかまわない」と話してくれたということを書いたのだ。聞いた瞬間は驚いたのだが、結局車で言うガソリンが炭水化物で、子どもの活動のエネルギーはそれなのだと。だから「おにぎり」はその点でも的を射た昼食なのだ。
その便りを読んだあるご家庭のエピソードを聞いた。お母さんの体調がどうしても悪い日、夕食の準備が出来なかった。そこでその日はおにぎりと野菜たっぷりのお味噌汁にしたのだと。おかずのことで不平が出るかと思ったが、子どもはむしろ喜んで、いつもより食卓がいろんな話で賑わったのだと。それ以後時々おにぎり夕食の日をつくり、今では子どもも自分で握るようになった上、お母さんもあの日体調が悪かったことを隠さずに話したので、そんな日には「お母さん今日は大丈夫?」と心配してくれるまでになった、優しさを感じるようになった、と。
児童精神科医の(故)佐々木正美先生は、子どもの偏食に悩む母親に「みんなで食卓を囲むことが楽しいと思うことが先ず第一」と答えている。それが食に関する悩みのほとんどを解決するスーパーアンサーのようなのだ。どういうことか。食事をするということは体の栄養である以上に心の栄養を摂ることなのだろう。だから家族が一緒に食卓を囲む時、それが栄養学的にどうかということよりも、そういう時間を共に過ごすことの方がよほど大事だということなのかも知れない。
もちろんこんなことは例えば入学試験の答案ではない。つまりそうでなければアウトなんて単純な話ではない。人間だもの、生きていく上ではいろいろと済ませなければならないことが限りなくたくさんある。気をつかうこと、使わねばならないことも。
だけど、だからこそ「地道が近道」なんじゃないかな。
2023
17Sep