約40年間介護してきた妻を車椅子ごと海に突き落として殺害するという事件が2022年11月に起きた。18日この事件に対する裁判員裁判の判決が下され、法定刑の下限(懲役5年)を下回る懲役3年(求刑・懲役7年)の実刑判決が言い渡された。
裁判長は「介護できなくなることを一方的に悲観して犯行に及んだ。犯行態様も悪質で典型的な介護疲れの事案と同視することはできない」と述べたとも伝えられた。
妻が39歳で脳梗塞を発症し、以後40年介護を続けてきた被告は82歳になった。社会的責任が重くのしかかり始める40代で妻の介護を始めたことになる。介護保険が始まったのが2000年。保険ということは「介護を社会の責任で担おう、個人の負担を軽減しよう」ということだと信じたいのだが、1982年当時は個人の責任に課せられる部分があまりにも大きかっただろうと推測する。そういう中でその道を選び、伝えられるところによると親族の手も借りずにその責任を果たし続けてきた被告。現状を心配した子息の配慮で介護施設に入居することが決まって、その期日が迫っての犯行だったという。被害者は介護施設への入居を心待ちにしている様子も見られたらしい。判決は被告が一方的に悲観して事件に及んだとして「犯行態様は悪質で身勝手極まりない」とした。
亡くなられた人の思いを代弁することは誰にも出来ないけれど、彼女が介護施設への入居を心待ちにしていたのは40年にも及ぶ介護につくした夫への思いやりでもあったかもしれないし、その妻を入居させることで生じる金銭的な負担を息子に負わせることに対する被告の忸怩たる思いもあったのかもしれず──すべては推測に過ぎないのだけれども、「悪質で身勝手」という言葉を聞いて、わたしはテレビの前で硬直してしまったのだった。
とにかくやるせなさだけが残る。ではわたしは何をしているのか問われれば、答えようのない為体なのだが。