幼稚園を卒園する子どもたちにプレゼントされる聖書。この中表紙に一冊一冊聖書のことばを手書きする。園長・牧師の大事な仕事なのだという。極端に「手書き」することが少なくなって全く自信がないのだが、大事な仕事とあれば精を出す以外にない。
ことばを選ぶのも仕事のうちだそうで、これまた悩ましい。結局キリスト教保育連盟の2021年主題聖句「一つの部分が苦しめば、すべての部分が共に苦しみ、一つの部分が尊ばれれば、すべての部分が共に喜ぶのです。」(Ⅰコリント12:26)とした。ところが、卒園児への聖書ゆえ、文字は全て平仮名で書くこととなっている。するとどうだ、ただでさえ文字の形が決まりにくい「ふ」(正確には「ぶ」)が9回も出てくる!
人間の脳による認識には、不可解な部分がまだまだたくさんあるそうだ。同じ文字をできるだけ早く連続して書き続けると、意図しないのに似たような文字を書いてしまう「書字スリップ」という現象があるそうだ。1冊丁寧に書こうとすると、「ぶ」が何度も出てくるのでこの現象に見舞われる危険度が格段に上がる。加えて「ゲシュタルト崩壊」という現象もあって、ひとつの文字をじっと眺めていると、文字全体の印象がぼやけたり、別の文字に認識してしまう心理現象らしい。幸い全て平仮名なのでそうなる危険は少ないかも知れないが、何せサインペンを握って1冊1冊一発勝負。緊張しながら書き進めているので、集中しても一度に3冊くらいが限度だ。
一人ひとりの名前を記す。名前の向こうに、その子の一番いいお顔が目に浮かんでくる。笑顔がかわいいのはその通りだけど、その子らしさが一番現れるのは笑顔とばかりは限らない。それはつまり、その子とわたしの間のエピソード。受け手としての私がその子をどう見たか、見ているかが端的に表れるということ。それもまた面白いではないか。
本当に、もうすぐ卒園なんだね。