先週この欄の執筆で牧師室の机に付いていたときのこと。
部屋の空気に流されるように一匹の小バエ(体長1センチ弱、おそらくショウジョウバエ)が右手の指のちょっと先、机の上に停まった。最初のうちは通常のように机に停まっていたのだが、時折体を震わせるように動いては静かになるを繰り返した。そして見ているうちに、静かにそこに横たわり、いのちを閉じたのだ。
通常ハエは人間にとって邪魔な存在だ。中学生の頃、やはり勉強机の灯りの周りに大きなオオクロバエが飛び回るのを、指にはめた輪ゴムを弓に、小さく折った紙と虫ピンを矢にして狙い撃ち、みごと石膏ボードの壁に射貫いたことが何度もあった。わたしにとってハエとはそういう存在だった。だが、こうやってわたしの側でいのちを静かに閉じるショウジョウバエを見ていて、かつてのわたしとは違う感情が芽生えてくるのを感じてしまった。
数ヶ月前、「どうして人は『こちょこちょ』されるとくすぐったいのか」を「チコちゃんに叱られる」という番組で解き明かしていた。地球上の生物の頂点を極めたかのような人類にとって、小さな蚊こそが天敵なのだという。体に蚊が接近すると命の危機を感じ本能的にそれを追い払おうとするのがくすぐったい感覚の基本だというのだ。蚊もハエと同じく邪魔な存在でしかなかったが、まさか人類の天敵だとまでは思わなかった。確かに高度医療を手にした現代でも、蚊が媒介する厄介な病気が存在するのは事実だなと、改めて感心したものだった。
一方、さしたる実害がないにもかかわらず毛嫌いされているのがゴキブリ。地球上では人類より遙かに先輩でありながら、ここまで嫌われるのもどうかと思うが、不思議と感慨はわかない。大騒ぎするほど嫌いではないが、決して好きでもないのだけどね。
我が家の子どもたちも小さい頃は虫が友だちだったのだが、今ではホンの小さな蛾ですら大騒ぎ。「害」虫かどうかなんて、本当のところはわからないんだけどね。まぁ、人間同士も一緒か。