四谷新生教会 2020.11.22
マタイによる福音書25:31-46
「神はすべてを知っている」
私は牧師としての働きの中で、キリスト教の信仰を持っていない方か
ら、「キリスト教は信じれば救われるという教えだけれども、特に何も
信じていない私は救われないでしょうね。天国には行けないですね」と
言われることがあります。私はその度に、「信じれば救われるというこ
とはその通りですが、何を信じるのかということが大切なのです」と話
します。すると、「それはイエス・キリストを信じるということですよ
ね」と言われます。そこで、「イエス・キリストの何を信じるのかが大
切なのです」と話し、その信じる大切なことは、イエス・キリストの十
字架での死と死からの復活であると、少し説明をします。
その説明はキリスト教の信仰を持っている方には、すでに十分に分か
っていることです。主イエスの十字架の死と死からの復活とは、神様の
前に正しく生きようとしても生きられない罪人である私達人間が、神様
から罪を赦されるために、主イエスが私達の身代わり、贖いとなって十
字架で処刑され、私達が神様といつまでも共にあり続けられるために、
復活によって永遠の命を与えて下さったことなのです。と説明をします。
この主イエスの死と復活によって、私達人間はすべて赦され救われてい
るのです。今、「人間はすべて」と言いましたが、「主イエスを信じる者
も信じない者もすべて」ということでもあります。神様は主イエスによ
って、正しく生きる者も生きられない者も、そして主イエスを信じる者
も信じない者も、赦され救って下さるのです。このことが福音、神様か
らの良い知らせなのです。
キリスト教の信仰を持っていない方は、「信じなければ救われない」
と思い違いをしている方がいますが、私は話の最後に、「イエス・キリ
ストを信じるか信じないかはあなたの問題ですが、信じないあなたを救
うか救わないかは神様の判断です。その神様の判断はキリストの十字架
の死と復活によってなされます」と話しています。
さて、今日の聖書の個所ですが、人の子である救い主、つまり主イエ
スが終末の時、神の国が成就する時に、「神の栄光の座」に着いて、「す
べての国の民」を集められ、「羊飼いが羊と山羊を分けるように、彼ら
をより分け、羊を右に、山羊を左に置」きました。イスラエルにおいて
は羊と山羊は一緒に放牧されていたようです。ただ夜になると、山羊は
寒さを嫌うので洞穴や小屋に入れ、羊は新鮮な空気が必要なので外の囲
いに入れたようです。
ここで人の子で救い主である主イエスは、王として、また審判者とし
て、羊として右側に分けられた人達に、「さあ、わたしの父に祝福され
た人達、天地創造の時からお前達のために用意されている国を受け継ぎ
なさい」と言われます。王であり審判者、そして神の子として主イエス
は、羊として右側に分けられた人達に、「あなた方は神様から正しいと
認められているから神の国、天国に入り、神の働きを受け継ぎなさい」
と言われます。
右側に分けられた人たちが認められた理由は、「お前達は、私が飢え
ていたときに食べさせ、のどが渇いていたときに飲ませ、旅をしていた
ときに宿を貸し、裸のときに着せ、病気のときに見舞い、牢にいたとき
に訪ねてくれたからだ」と説明をしています。人は食べなければ、そし
て水が無ければ、この世で生きていくことはできません。当時の大半の
民は自分達が食べて行くだけでも大変で、余裕がない中で分け与え、雨
が少なく乾季もある気候での水はかなり貴重なものだったと思います。
そして、牢獄に入れられた者を援助することは、自分も疑われたり、捕
らわれてしまうかもしれない危険な行為でもありました。
審判者である主イエスから、正しいの方の右側に分けられた人達は、
主イエスから認められたので喜んだり感謝するのかと思えば、「主よ、
いつ私達は、飢えておられるのを見て食べ物を差し上げ、のどが渇いて
おられるのを見て飲み物を差し上げたでしょうか。いつ、旅をしておら
れるのを見てお宿を貸し、裸でおられるのを見てお着せしたでしょうか。
いつ、病気をなさったり、牢におられたりするのを見て、お訪ねしたで
しょうか」と、驚き戸惑いました。
神様の前に正しい方に分けられた人達は、自分達の前にいる人が誰で
あれ、どんな人であれ、貧しかったり、病気だったり、辛い目に合った
りしていたら、見返りや名誉を求めず、自分ができること、持っている
ものを提供し、時には身の危険も顧みず、無償の愛を与える人達だった
のです。信仰的に言うならば、救われるために良い行いをしようとか、
この良い行いをすれば永遠の命が得られるかもしれない、などと打算的
に考えない人達でした。
このように自分のこの世での行いが、正しいか正しくないかというこ
とを問題とするのではなく、自分の目の前にいる人が助けを必要として
いるかどうかを問題としている右側に分けられた人達に対して、王であ
る主イエスは、「はっきり言っておく。私の兄弟であるこの最も小さい
者の一人にしたのは、私にしてくれたことなのである」と教えました。
この主イエスの言葉ではっきりしたことは、この世で貧しくされ、定
住もできず、命の危険にさらされている人達は、まさしく主イエスと同
じ存在なのだと言うことです。そして、王であり審判者、主イエスから
正しいと言われた人達の無償の愛の行いは、主イエスに対する行いであ
ったということです。
主イエスが言われる「最も小さい者」とは、直接的には主イエスであ
り、主イエスの弟子達のことを示しています。なぜなら、主イエスや弟
子達は、この世において、飢え渇きみすぼらしい身なりで、定住すると
ころもなく、当局から監視され、捕えられようとされたり、命を狙われ
て、心休まらない生活を送りながら、神の教え、神の良い知らせとして
の福音を伝えていたからです。このように、この世で最も小さくされた
主イエスや弟子達とどう関わるかが問題なのです。当時実際に、損得勘
定や魂胆なく、主イエスや弟子達のためにお世話をしたり、力を貸した
人達がいました。この人達の中にはお世話をしたり、力を貸したことで、
偏見や差別を受けて「小さくされた人達」もいただろうと思います。
皆さんの多くの方は、杉原千畝(すぎはら ちうね)という方の名前
を知っておられると思います。第二次世界大戦中、リトアニアのカウナ
ス領事館に赴任していた日本の外交官で、クリスチャンでした。杉原千
畝は、1940年7月から8月にかけて、ナチスドイツの迫害によりポ
ーランドなど欧州各地から逃れてきた大半がユダヤ系であった難民達の
窮状さなどの苦難を見て、外務省からの指示、命令に反して、大量のビ
ザ(通過査証)を発給し、6000人の難民を救ったことで、「東洋の
シンドラー」などとも呼ばれています。
後に杉浦千畝がこのことについて、「大したことをしたわけではない。
当然のことをしただけです」と話したことは良く知られていますが、今
日は、杉浦千畝の信仰における覚悟を知ることができる言葉を紹介した
いと思います。その言葉は、「私は日本政府に背かなければならないか
もしれない。しかしそうしなければ、私は神に背くことになるだろう」
です。杉原千畝は戦後の1947年に外務省を辞めさせられています。
その後、外交官としての名誉が回復されたのは、天に召されて6年後の
1991年のことで、実に44年も経っていました。
私達は今日の聖書から主なる神が何よりも大切にされていたことが、
社会の中で一番小さくされている人達を大切にし、行動することだと示
されました。そのことについては旧約聖書の申命記10章17—19節
にも、「あなた達の神、主は神々の中の神、主なる者の中の主、偉大に
して勇ましく畏るべき神、人を偏り見ず、賄賂を取ることをせず、孤児
と寡婦の権利を守り、寄留者を愛して食物と衣服を与えられる。あなた
達は寄留者を愛しなさい。あなた達もエジプトの国で寄留者であった」
と記されています。このように聖書の神様は、一番小さくされている者、
虐げられ、貧しい者が、そこから解放され、人権、生活の権利を回復す
ることを何よりも願われ、大切にされている方なのです。
ここで今日の聖書の41節以下について少し触れておきたいと思いま
す。ここでは「最も小さい者」へのお世話などをしなかった人達への厳
しい裁きが記されています。主イエスの前に素直な思いで自分を顧みる
ならば、大半の方は、自分はお世話をしなかった左の方に分けられる山
羊の一人だと認められるのではないでしょうか。もしそうであっても、
神様を恐がらないで下さい。お世話をしなかった、できなかった人達の
すべてを知った上で、神様は主イエスの十字架の死と復活によって救わ
れるのです。だからこそ、「神の求めるいけにえは打ち砕かれた霊。打
ち砕かれた悔いる心を 神よ、あなたは侮られません」と、詩編51編
19節にありますように、私達は努めて、「最も小さい者」のために祈
り、お世話をしながら歩み、またできないときには、神に悔いる心をさ
さげて歩んで行きたいものです。
(祈祷)
聖なる神様、あなたのみ名を崇め讃美いたします。
今日の四谷新生教会の主日礼拝に、一人ひとりがあなたから名を呼ばわ
れ、聖霊に励まされ導かれましたことを喜び感謝いたします。礼拝堂で
ない場所であなたと共に礼拝や祈祷の時を守っている方もおりますが、
すべての人達があなたと共にいますことを信じ、あなたのみ心である
「最も小さい者」のために祈り、お世話をし、またあなたへの悔いる心
をささげて歩めますよう信仰を養って下さい。
このお祈りを主イエス・キリストのみ名によっておささげいたします。
2020
20Nov